耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

「さ、どうぞ。熱いですから気を付けて。」

差し出された椀を手に取る。中身を見ると、とろりと白濁した汁の中にお米と玉子が混じっている。美寧にもそれが玉子雑炊だとすぐに分かった。

「どうかしましたか?一応味見はしましたので、食べられるようにはなっていると思いますが……」

お椀を見つめたまま動かない美寧を不思議に思った怜は、彼女の顔を横から覗き見た。

熱があるせいで頬は赤いが全体的に青白い肌は、とても健康的には見えない。もしかしたら他に持病でもあるのかもしれないが、美寧を往診した医師は『熱は風邪からくるものだろう』と言っていた。怜にはその時に同じく診断された『栄養失調』という症状の方が気になっている。

「食べないと薬が飲めませんよ。」

怜がそう声を掛けると、美寧は緩慢な動きで椀に添えられた木の匙を手に取った。
美寧はきつく眉を寄せ椀の中を睨みつけるように凝視している。その姿を、怜はじっと見つめていた。

(まるで親の仇を見るような目つきだな。嫌いな物でも入っているのか、それとも知らない男の手料理が嫌なのだろうか……。)

一向に食べようとしない美寧に、怜は出来るだけ優しく尋ねた。

「食べられないものでも入っていますか?」

美寧は黙って首を左右に振る。

「知らない男が作ったものは嫌ですか?」

今度はそう尋ねて見ると、驚いたような顔で怜を振り仰いだ彼女は、無言のままぶんぶんと頭を小刻みに横に振り、すぐに辛そうに眉間に皺を寄せた。
さっきから少しの動きでも辛そうにしている美寧なのに、少し意地悪な質問をしてしまったと怜は反省する。
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