part-time lover
坂の途中の喫煙所で足を止め、彼がポケットからタバコを出した。
奇しくも父親と同じ銘柄。
「メンソールじゃないけど大丈夫?」
「あ、むしろその方がいいです」
「渋いなぁ」
彼がどこか嬉しそうにニヤッと笑うと、細い指で箱から一本取り出して、私の口元に近づけた。
指で挟むという選択肢が頭に浮かぶ前に、反射的にそれを唇で挟んだ。
「はい、どうぞ」
タバコの先にライターを近づけられたので、ゆっくり息を吸いながら火をつけた。
苦くて懐かしい風味が口の中に広がる。
人からタバコをもらうって、こんなに官能的な行為だったかな。
意識的にやってるとしたら、ずるい人だ。
久しぶりのタバコでくらっとする視線を彼の方に向けると、慣れた所作で煙を吐き出している。
タバコを挟む指が綺麗。
酔いが回るのを感じながら、なぜかやりきれない気持ちを煙と一緒に吐き出した。