part-time lover


『いらっしゃいませ』

機械的な音声に迎え入れられ、電光の灯るパネルと向かい合う。
空いている部屋の中で、一番高いところのボタンを彼が押した。

案内されるがまま、受付に移動する。
顔は見えないものの、パーテーション越しの年配の店員さんの心中を想像しながら、部屋の鍵を受け取る彼をぼんやり見ていた。
昭和感の漂うプレートのついた鍵を持ち、エレベーターを呼ぶ。

到着を待つ間、何か話した方がいいのか迷っていた時だった。

「勢いで誘ったけど、人生初のステイだからめちゃくちゃドキドキしてるんだけど。
透子ちゃん責任とってよね」

到着したエレベーターに乗り込み、向かう階への移動時間、沈黙を破る彼の一言。
硬い表情で冗談を言うアンバランスさに、思わず緊張が解けてしまった。

「なんですかそれ。不倫しときながら純ぶるの、反則です」

彼のこういうところ、好きだなあ。
甘えさせてもくれるし、急に幼くなるところ。

セックスするだけでは分からなかった彼の一面がたくさん垣間見えて嬉しい。
それが癖になってしまったら、抜け出せない沼に引き摺り込まれるのは何となく分かってはいたけど、今は極力目を逸らしていたかった。

チンっと、古めかしい到着音がエレベーターの中に鳴り響き、少し気が引き締まる。

この後この人に私は抱かれるんだろう。

これほどなぜここに来たか明白な目的地は、これ以上にないんだろう。
ラブホテル。

この数十分後、今絡めてる湿度の高い指や血色の良い唇は私のために使われるんだろうか。

趣味は悪いかもしれないけど、見たことのない方の旦那様とこんなタイミングで一夜を共にできるのは、悪い気がしないものだ。

優越感と、今後の展開に期待を膨らませ、エレベーターを降りた。

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