part-time lover
ひとしきり喉を鳴らした後、缶をテーブルに置いて伸びをする彼の表情は、開放感で満ちていた。
「はー、外暑かったね。
お風呂ためて一緒に入らない?」
シャツのボタンを一つあけて、ねだる様に視線を私に投げた。
ここぞとばかり普段できないことを提案してくる様子が可愛く思えて、なんでも許してしまいそうになる。
「いいですよ。お湯溜めてきますね」
あくまでも冷静なフリを装って、彼のお願いを快諾した。
でも内心は、この非日常な状況と、この後の展開にワクワクしているのはわかっている。
「ありがとう。さっきから本能のまま言いたいこと言って気持ち悪いな、自分」
時々冷静になって自分にツッコミを入れる様子が面白かった。
「いいですよ、こんな機会もうないかもしれないんだし」
そう。今日が特別なだけで、明日の朝にはこれまで通り適度な距離感の大人の男女に戻るだけ。
彼に向けたはずの言葉なのに、なぜか自分に言い聞かせているみたいになってしまった。
バスルームに向かい、広い浴槽の蛇口を捻った。
勢いよく水が流れ出す。
浴槽へと落ちる水音で、少し心が落ち着いた。