part-time lover
ガチャンと鈍い音が浴室に響き渡り、ドアが開くと陽さんの引き締まったボディラインが微かに見えた。
「お隣お邪魔していい?」
続いて低くて優しい彼の声が響く。
「はい、どうぞ」
体を流した後、彼が浴槽に浸かると勢いよくお湯が流れた。
男の人と一緒にお風呂に入ったの、いつぶりだろう。
少なくとも雅也くんとはしたことがなかった。
「は〜。気持ちいいね」
濡れた髪を掻き分けて、オールバックになった彼が男らしく見えた。
お子さんともこんなふうにお風呂に入ったりしたのかな。
いらない邪推から謎の嫉妬心に心が痛んだ。
「透子ちゃん、後ろ向いて」
指さされた方に体を向けると、後ろから陽さんの腕に包まれた。
水の中の浮遊感と、男らしい腕の感覚が心地いい。
湿気を帯びた髪を撫でられた後、後ろからギュッと抱きしめる力を強められた。
背中越しに彼の早い鼓動の音が伝わる。
指先を私の顔に添えられて、後ろに向けるよう誘導される。
顔を覗き込まれ、何も言わずに再び唇を重ねた。
湯気で潤んだ唇の感触に電撃が走った。
無我無心で彼の唇を味わう。
浴室に官能的な音が響き、いよいよ何も考えられなくなってきた。
舌を絡めて名残惜しい気持ちで唇を離した。
「キスしてるだけなのに気持ちいいね」
「やめられなくなりそうで困ります」
キスが、というよりか、この関係が、といった方が正確だろうと言うのは麻痺した思考でもわかった。
「やめなくてもいいよ」
優しく頭を撫でられてから、軽く一度キスをされた。
もっと欲しくなる自分の素直な気持ちを、止めなくてもいいと言われてしまったら、もういらないことは考えないことにした。
「ベッドで続きしましょう」
相手にどう思われるかとか、世間的に何が行けないとか、いつも自分を縛ることを抜きにしたら、驚くほど大胆な発言をしてしまった。
「うん、俺もそうしたい」
その言葉を合図に、一度体を離し立ち上がった。
視界が眩むのは、長いことお湯に浸かってたからではなさそう。
再び洗面台の前に立ち、大きなタオルで体を拭く。
髪から水滴が滴る姿が色っぽい。
お互いタオルを巻いたまま、濡れた髪も乾かさずにベッドに向かった。
彼が布団をめくって中に私を誘導する。
これから起こることを想像しただけで体が疼いた。
はやる気持ちを抑えながらピンと張ったシーツに皺を作って、大きなベッドに横になった。
その直後、熱い体を重ねられる。
濡れた肌も、早い鼓動も、首元にかかる荒い呼吸も、私を興奮させた。
今彼は何を思ってるんだろう。
罪悪感なのか、優越感なのか、背徳感なのか、表情からは読み取れないけど、一緒にこの貴重な瞬間を大切にしたいと思っているような、そんな気がした。