終わる世界で、きみと恋の埋葬
ゆっくり手をとられた。おそるおそるの、不慣れな力加減だった。


つないだ手を両手できつく握られて、捧げるようにおでこに持っていかれる。


「俺は、もう。……失うものは、きみひとりでたくさんだ」


『俺は別に、どうなってもいい。もう、失えるものは何もない』


……かつて、失うものは、なにもないと言ったひと。そのひとが、きみひとりでたくさんだ、なんて。


「おこら、ない」


息が詰まった。ありがとうと言われてぶんぶん首を振る。


「だからふたりがいいな、俺」

「うん」

「ふたりならさ、寂しくないじゃん。見た人にはきっとこいつら付き合ってるんだろうなとかさ」

「うん」


そんな甘い幻想をこぼしながら廊下を歩く。


恋人になりたいとは思えなかった。お互い冗談にしなくちゃいけないとわかっていた。


彼は素敵でいいひとだけど、わたしが駄目だ。

いつ死ぬか分からないのに、相手に思い出なんて押しつけていけない。臆病で、お互いそんなこと言えない。


願わくば、と唱えた叶わない願いごとはひとつずつ増えていて、願わくば、と唱えるたび、どこか諦めを含んでいる。


願わくば、きみが笑ってくれますように。


願わくば、ふたりとも水になって、できたら蒸発して、雨になって、戻ってこられますように。
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