終わる世界で、きみと恋の埋葬
「もしきみが先にいなくなったらどうしよう」


不安が口をついた。


夜になると何度も何度も考える、朝教室に入って姿を見つけるまで何度も考える、決まり切った不安だった。


「いなくならないよ。高橋さんを置いてなんていけない」


笑い飛ばした隣のひとにジト目を向ける。


「……ばか。わたしは真面目な話をしてるんだよ」

「俺だって真面目な話をしてる」


……でも、さ。


「名前をあげるよ。俺の名前をあげる。もし、もしだよ、万が一俺がいなくなったら、俺の名前を呼んでよ。俺が置いていけるものはそれくらいしかないから」


やだよ、と即答したのは明るい響きになっただろうか。泣き濡れてはいなかっただろうか。


「きみの名前を呼んでどうするの。余計に寂しくなっちゃうでしょ」

「えー、呼んでよ。呼んだらひょっこり戻ってくるかもよ」

「じゃあわたしの名前をあげる。交換しよう。そしたら寂しくないし」


おはようやまたねの後に呼べる名前は、もうきみの名前ひとつしか残っていない。


提案に、つないだ手が強く握られる。


「俺、自分の名前、別に好きでも嫌いでもないっていうか、どっちかっていうと、なんか、ただ単に自分の名前だなって思ってたんだけど」

「うん」

「高橋さんの名前なら、一番好きな名前だ」

「わたしも。渡辺くんの名前なら、一番好きな名前だよ」


このところ、幸せとか優しさとか寂しさとかに、きみの名前をつけてばかりいる。


最近のわたしの日常は、何かを言い表したいとき全てに彼の名前が付随していた。


「約束する。わたしの名前(明日香)はきみのものだよ」

「俺も約束する。俺の名前(飛鳥)はきみのものだ」


ふたりで息を吸って、交換した名前を大事に呼ぶ。


「あすか」

「あすかくん」


前を向いたまま指切りをして、ぎゅうと強く強く手をつないだ。まるでお別れみたいだった。
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