危険な愛に侵されて。




「ふ、ふざけないでよ!」

けれどその時声を震わせたのは京子さん。
どうやらこの状況に怒り狂った様子。



「秋崎さん、こいつを殺して!
約束通り涼雅を殺しなさいよ!」


まだそれを言うのか。
この状況にきて、彼女はまだ涼雅に対してそんなことを。



「───京子」



また私が口出ししようと思ったその時、秋崎さんではない誰かが彼女の名前を呼んだ。

その声の主とは、見なくてもわかる。



「……あ、ああ…嫌、嫌よ……」



首を横に振る京子さんは全てを諦めたかのように、地面に膝をつけて崩れ落ちた。


「来ないで…俊二さん」


急いで来たのだろう。

額に汗を滲ませている俊二さんが、ゆっくりと京子さんに近づいていく。


そして俊二さんは涼雅の横を通り過ぎた時。
涼雅の肩にポンと手を置いた。


「……ダメな父親でごめんな」

小さな声で涼雅に謝った後。


覚悟を決めたのか、冷たい瞳へと変わり。
京子さんの前で屈んだ。




「京子」
「嫌、嫌よ俊二さ……」

「俺は君を甘やかしすぎた」


冷たい瞳だけでなく、冷たい声を向けられ。
彼女はただ泣いていた。



「どうしてあの時、もっと重い処置を取らなかったのだろう」

「そんなこと、言わないで…」


「君はどうして今、泣いている?」
「それは俊二さんが好きだから───」


最後まで聞き終える前に、俊二さんは首を横に振ったかと思うと。


「君にはもう、救いがないようだ。
どうか悔いるまで暗闇の場で過ごすといい」

「俊二、さ…」

「これからは俺が親として涼雅を支える。思春期の息子が恥ずかしいと思うくらい、愛情を注いでやるんだ」


その時に俊二さんが嬉しそうに笑った。

恐らくその笑顔が一番、京子さんにとって“絶望”へと変わることだろう。


「……っ」

涼雅はというと、恥ずかしそうに頬を赤らめ。
ふいと俊二さんから顔を背けていた。


やっぱり子供であるのだ。
親からの愛情は欲しいもの。

私だって───



ああ、もう考えることはやめよう。
その分これからは涼雅から貰えばいいのだ。

十分すぎるくらいの愛を。

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