悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「マリアがここにいると聞いて、会いに来ましたわ……」
二人の真っ青な顔を見て、私はリリーにロイのところに戻っておいてと告げ、その場からリリーを退散させる。
私はまだ二人がしたことを誰にも話していない。二人がそれを知っているかはわからないけど。
「マリア……ごめ、ごめんなさいぃぃぃ」
たかが外れたようにその場に崩れ落ちジェマが泣き始めた。
ジェナはそんなジェマを横目に、自身も瞳に涙を浮かべ必死に我慢しながら私に言う。
「自分がしたことに責任はとりますわ。どんな結果でも――だから最後にマリアに本当のお別れと謝罪を――ごめんなさい」
平気なふりして気丈に振舞っているように見せて、ジェナの足は震えていて今にも崩れそうになっているのを私は見逃さなかった。
「……二人がしたこと、誰かに言うつもりないわよ」
「……マッ、マリア? だって、ジェマ達がマリアを……っ」
「そうですわ。城中の話題になって、私達も逃げられるとは思ってませんし逃げようとも思ってませんわ」
「いいの! だって――きっと今までは、そういう究極に悪いことするのって全部私の役目だったのよ。だけど私がそれを放棄したからかわりに二人がやっただけ。この世界でも誰かが絶対最強の悪役にならなきゃいけなかったのよ」
死ぬはずだった人が生きるとその世界の均衡を保つ為に世界がその人を殺しにかかるとか、誰かがかわりに命を落とすとか、よくあるじゃないそういう話。
きっとこの世界もそれと一緒。私が放棄してしまった悪役の穴埋めを、二人がしただけのこと。
本当だったらマリアがリリーに同じようなことをしていた――と思う。
「かわりにやってくれてありがとって言っとくわ。あんな寒いのはもう二度と勘弁だけどね。もう一度言うけど、二人が犯人だって誰かに言うつもりないから。私達、出逢った日にチームを組んだみたいなもんでしょ。チームの責任は連帯責任ってことで」
「……よくわかんないけど、マリアはジェマ達を許してくれるってこと?」
「信じられませんわ。どこまでお人好しですの。……でも、そんな貴女だからこそ、王子は貴女を選んだんですわね」
ジェマはお礼を言いながら私の足に縋りついて泣き、それを見ながら私とジェナは笑い合った。