15年目の小さな試練
 こっそり会いに行きたい。だけど、絶対にダメだと言うのは分かっている。もしインフルエンザが移ってしまったら、笑いごとで済まなくなる。

 ごめんね。

 普通なら、奥さんが看病するよね。それで移って、二人ともかかっちゃっても、ひどい目にあったね、ってそれで終わる。

「え!? ハル!? どうした!?」

 画面の中のカナは、少し慌てたようにわたしの顔を見つめてきた。

 何でカナが慌てているのか分からず、何度か瞬きをすると、ツーっと涙が頬に流れてきた。

「ハル!」

「……あ、ごめん」

 そうか、この涙がたまっているのを見て、カナは慌てたんだ。

「ハル、大丈夫!?」

「うん。……あの、ただ、カナに会えなくて寂しいなって、思っただけで……」

 そう言いながらも、また次の涙がこぼれ落ちる。

 カナが頭を抱えた。

「あーなんでオレ、今、ハルの隣にいないんだろう!」

「ごめんね」

 カナの奥さんがわたしじゃなかったら、健康な人だったら、きっと熱を出したカナを看病してくれてたよね?

 だけど、カナは顔を上げると、不思議そうに

「なんでハルが謝るの?」

 と首を傾げた。

「とにかく、泣かないで? ね? 寂しかったら、えーっと、今日はお義父さんもお義母さんもいないのか、じゃあ、沙代さんとこ行ってくるとか。後、あー、兄貴! 兄貴を派遣しようか? あ、でも、沙代さんには抱き付いても良いけど、兄貴にはダメだよ!?」

 カナの言葉があったかくて、側にいないのに守られている気がして、寂しいのだけど、とても寂しいのだけど、心がほっこりあったまる。

「ありがとう」

 涙はまだ止まらなかったけど、カナの優しさが嬉しくて、わたしは泣きながら、カナに微笑みかけていた。


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