15年目の小さな試練
 ここには電波を嫌うほどの医療機器はないと思いつつ、窓際へ移動し、ハルちゃんの家に電話をかける。

「はい、牧村でございます」

「沙代さん? 晃太です」

「あら、晃太さん、……お嬢さまがどうかされましたか?」

 さすが沙代さん、鋭い。

 と言うか、沙代さんのこの反応、今のハルちゃんの様子を考えると、叶太が心配症なのでも過保護なのでもなく、必要な心遣いだったのだと思えてくる。

「ハルちゃん、具合を悪くして、今、医務室にいます。それで、迎えをお願いしたくて」

「どんな様子ですか?」

 言われて、ハルちゃんに目を向ける。

「ひどく…戻していて、かなり辛そうです」

「分かりました。すぐ向かいますね」

「お願いします」

 電話を切り、ハルちゃんに目を向けると、また苦しそうに嘔吐していた。
 


「ハルを一人にしないでね? 絶対だよ、兄貴。本当に頼むよ?」



 不意に脳裏に、叶太の言葉が浮かんでは消えた。



「ハルの顔色、ちゃんと見てあげてね? 絶対無理させないでね?」



 ごめん、ハルちゃん。

 もしかして昼休み、もう調子悪かった?

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