15年目の小さな試練
15年目の小さな試練

ピアノレッスン

 叶太が空手部に入部した翌週、二度目の水曜日も俺は叶太に頼まれて、ハルちゃんと並んで見学していた。

 どうやら、叶太は本当に空手が上手いらしい。型は思わず見とれるくらいに綺麗だし、何より指導に慣れていた。同じ年頃の相手に対して臆する事なく手本を見せて、丁寧に一つ一つの動きを説明し、直していく。

 ハルちゃんの世話を焼きたがる(と言うか、かまいたがる?)のは昔からだったけど、叶太はどちらかと言えば甘え上手な弟というイメージだったのに。意外な一面を見た気がする、と言ったら失礼なのかな。きっと、道場では長年に渡ってやってきた事なのだろう。

 って訳で、これはこれで面白いし別に良いんだけど、俺は一体いつまで付き合えばいいんだろう?

 もしかして卒業までずっと?

 ……まさか、なぁ。

 最初は物珍しいしけっこう面白い思う。だけど、試合でも何でもないただの練習をパイプ椅子に座ってジーッと見ているだけというのは、健康な俺でも結構疲れるものだ。ましてや、ハルちゃんには重労働じゃなかろうか?

 そんなことを考えていると気になって、思わず、

「ハルちゃん、疲れてない?」

 と聞いてしまった。

「え? ううん、そんなことないよ?」

 ハルちゃんは叶太に向かっていた視線をちゃんとこちらに向けて答えてくれる。

 確かに、顔色は悪くない……と思う。そもそも、少しでも体調に不安があったら、叶太がここに連れて来るはずもないだろうし。
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