15年目の小さな試練
 何より、心臓が悪いハルちゃんは、小学校に通うのすら体力的にも体調的にも厳しいみたいで、早退とお休みを繰り返していると叶太から聞いていた。そんな状態では、習い事に手が回らないのは仕方ないと思った。

「それは残念だったね」

 あんなに楽しみにしていたのに。

 そう思いながら言った俺の言葉に、明仁は

「よかったら、また聴かせてやって」

 と言った。

「ああ、いつでも連れてきてあげて」

 その後もハルちゃんは、明仁に連れられてよく遊びに来て、叶太と遊び、ピアノも聞いていっていた。だけど、俺が中学に入り部活が始まると時間も合わず、少しずつハルちゃんが遊びに来る回数も減って行った。

 気が付くと、この春の誕生日までの何年もハルちゃんにピアノを聴かせていなかった。



「せっかくだから、あのピアノを弾いてあげない?」

 ハルちゃんの家にあるのはスタインウェイのアップライト。初めての習い事に、おじさんが張り切って取り寄せた逸品だ。

 何にせよ、あれはもったいない。

 スタインウェイがまったく弾かれず、飾りと化しているなんて、もったいないと言うか、そう、ピアノが気の毒すぎる。
 調律は完璧だったし、埃一つ積もっていなかったし、ピアノに対する冒涜とまでは言わないけど……。

 でも、ピアノが好きだと嬉しそうにしていたハルちゃんはやっぱり遠慮する。

「とっても嬉しいの。でも……」

 ……だよな。

 たった一週間、叶太がインフルエンザにかかった間に俺が付き添うのさえ、相当遠慮してたもんな。
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