15年目の小さな試練
 だけどね、ハルちゃん、

「俺は、あのピアノ、弾いてあげて欲しい!」

 ん? 俺の声、そんなに気合い入ってた?

 ハルちゃんはとても不思議そうに俺を見た。

「……晃太くん?」

 俺はハルちゃんにピアノを弾かせてあげたいのか、あのピアノを弾いてもらいたいのか?

 ……うん、どっちもだよな。

 でもって、ハルちゃんは叶太を自分から引き離したい、と。
 そう考えたら、この話、悪い提案ではないと思う。

「えっとさ、別に運指の練習なんてしなくていいし、身体に負担がかかるような練習はさせないよ。

それでも、ゆったりした簡単な曲を時間かけて弾けるようにするくらいなら、無理なくできると思うよ」

 ハルちゃんが気にしているのは、そこじゃないと知りつつ、あえて習うならの過程で話してしまう。

「……例えば?」

 お、いい感触。

「そうだな。例えば、アヴェ・マリアみたいな曲とか」

 ハルちゃんは俺の言葉に目を輝かせた。

「弾ける? 私にも弾けるかな?」

 やっぱり、ピアノ好きだよね、ハルちゃん。

 自然と俺も頬がゆるむ。

「うん。大丈夫。割と簡単な曲だし、ハルちゃん、リズム感も音感も悪くないと思うし」

 ハルちゃんと一緒に弾いたのはカエルの歌なんて簡単なものだけど、これはホント。幼稚園児のハルちゃんが叶太と一緒に歌っていたのも聞いた事があるけど、ちゃんと上手だったし、問題ないはず。

 だけど、俺の言葉をキラキラ輝く笑顔で嬉しそうに聞いていたハルちゃんは、不意に真顔に戻る。

「でも、晃太くん、迷惑じゃない?」

「え、なんで? 俺から言い出したんだよ? 迷惑なら言わないよ」

「だって、毎週、晃太くんの大事な時間をもらっちゃうなんて……」
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