15年目の小さな試練

初レッスン

 初めてのピアノレッスンの日、

「ハルちゃん、楽譜読めるんだ」

 晃太くんが驚いたようにわたしを見た。

「……学校で習うよ、ね?」

 なぜ晃太くんが驚くのかが分からず、わたしは小首を傾げて、まじまじと晃太くんを見つめてしまった。

「ああうん、習うね。だけど、和音なんかは楽器とかやってなきゃ、普通読めないんだけど。……ってか、ハルちゃんって苦手科目ある?」

「え? 苦手? ……体育」

 思わず声のトーンが下がってしまう。

 わたしが苦手なものって言ったら、聞くまでもなく、それしかないよね?
 実技なんて、一度もやったことがないし。

 だけど、わたしの答えを聞いて、何故か晃太くんは吹き出した。

「あはは。……そっか。苦手なものはなしか。さすがハルちゃん」

 何がさすがなのか、まったく分からない。体育が苦手だと言ったのに、苦手はなしとか言われてるし。

 困っていると晃太くんは笑いを納めてくれた。
 だけど、晃太くんの笑いのツボがどこにあったのかは分からないまま。

「ごめんごめん。うん。じゃあ、……はじめようか」

 そうして、晃太くんが何に笑ったのか分からないままに、初めてのピアノレッスンは始まった。



「ハルちゃん、上手!」

「筋がいいね!」

「うん、いい音!」

 晃太くんはとっても誉め上手だった。

 素敵な言葉をたくさんもらって、何だか心がほっこりして、言われるままに楽しく弾いている内に、あっと言う間に時間が過ぎていく。
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