15年目の小さな試練
 小首を傾げてそう答えると、晃太くんはぷっと吹き出した。

「……ハルちゃんって、ホント、勉強好きなんだな」

 晃太くんはわたしの書棚の、経営学関係の本が並んでいる一角を眺めながら笑った。

「あれを一ヶ月や二ヶ月で読んで理解できるんだもんな。……てか、増えてる?」

「あ、うん。少しだけ」

 課題を解いていると、まだまだ分からない事が出て来る。その疑問にヒントをくれそうな本を何冊か買い足して読んでいた。

「うーん。ハルちゃんが楽しいなら良いのかも知れないけど……」

 晃太くんはもう一度、わたしの課題に目を落とした。

「ハルちゃん、これさ、ホント、普通じゃ考えられないくらい、難しいのをもらってるよ。解くの、時間かかるでしょう?」

「……んー、それなりに、かかるかなぁ」

 確かに、他の授業で出る課題とは比べ物にならないくらいには時間がかかってる。

「山野先生、なんて言って、これくれるの?」

「課題をもらう時?」

「うん」

「えっとね、『あなたなら出来ると思う』とか、『頑張ってみて』とか、それから、『期待してるわよ』……とか、」

 言いながら、何だか恥ずかしくなってくる。

 その他にも色々言われたけど、そんな言葉に嬉しくなって、つい頑張ってしまったとか、何だか子どもみたい。

 思わず赤くなって俯くと、晃太くんはくすりと笑った。

「ハルちゃんが楽しいなら、まあ、良いんだけどね。何か困ったことが出てきたら、いつでも言ってね? 相談に乗るからさ」

 晃太くんはそう言って、わたしの頭をぐりぐりとなでた。

 最近、晃太くんに頭をなでられることが多いな、とふと思った。
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