15年目の小さな試練

兄貴の忠告

「叶太、ハルちゃん、大丈夫?」

 水曜日の夜九時過ぎ、兄貴から電話がかかってきた。
 そして開口一番兄貴が言ったのが、この言葉だった。

「え? ……何が?」

 ハルは少し前に先にベッドに入った。

 週の半ばの水曜日。疲れが出やすい時期ではあるけど、特に体調が悪いと言うこともなかった。
 だから、兄貴の言葉はホント、思いもよらなくて、オレは兄貴の声を聞きながら首を傾げる。

「いや、大丈夫ならいいんだけど」

 兄貴はそう軽く返すけど、それで終わりにできるはずがない。

「ちょっと待って! ちゃんと教えてよ」



 空手部に入って二回までは、兄貴を頼んでハルも見学に来ていた。だけど、たまの一回ならまだしも、毎週帰りが夜の七時を過ぎるのはハルには負担が過ぎる。

 どうしようと思っていたら、何故か毎週水曜日の夕方、ハルが兄貴にピアノを教えてもらうという事になっていた。

「だから、カナは空手、行ってきてね」

 ハルはにっこり笑って言ったけど、オレは青天の霹靂で目が点。だけど兄貴に聞いても、それで間違いないというし、ハルを連れ歩くよりも、家で一人で置いておくよりも、ハルが楽しめるなら兄貴とピアノを弾いている方がいいのは間違いなくて。

 ものすごく微妙だったけど、オレは兄貴にハルを頼むことにした。

 何故か、夕飯も兄貴とハルの二人で食べることになったらしく、

「だから、カナは最後まで練習してきてね?」

 そう言うハルの言葉には有無を言わせない何かがあって、オレは納得いかないながらも、頷くしかなかった。


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