15年目の小さな試練
「行こうか?」

「うん。ごめんね、急がなきゃね」

「ん? ハル、何か用事ある?」

 今ので、今日の講義はもう終わり。本当なら、後は帰るだけだ。
 でも、急いでると言っていたから、きっとカナに何か用事があるのだと思っていた。

 小首を傾げて、

「……急いでるんじゃなかったっけ?」

 と言うと、カナは

「ああ、あれはただの口実。ごめんね。……なんか、ハル、困ってたっぽかったから」

 そう言って、苦笑い。

「そっか」

「慌てなくて良いから、ゆっくり、ね」

「うん」

 カナに微笑み返し、机に手を付き、言われた通りにいつものペースでゆっくり立ち上がる。

「疲れただろ? 大丈夫?」

「うん」

 笑顔でそう答えたけど、最近、少し疲れ気味だ。

 朝起きた時にも、前日の疲れが残った状態なのだから、九十分授業を四コマこなした今なんて、正直、へとへとだった。
 まだ涼しい今の時期ですらこれだ。気温が上がってきたらどうなるのだろうと思うと、不安が募る。

「早く帰って、ゆっくりしよう」

「ん」

 カナは自分のリュックを背負い、左手にわたしの鞄を持つ。

 大学生になっても、やっぱり、カナに頼ってばかり。
 だけど、カナはかけらも負担に思っていないようで、空いた右手で嬉しそうにわたしの手を握り、心底幸せそうな笑顔を見せてくれる。

 歩きながら、カナの手をキュッと握りしめ、

「いつも、ありがとう」

 そう言うと、カナは不思議そうに首を傾げ、だけど次の瞬間にはふわっと笑顔を浮かべて、

「急にどうしたの? でも、どういたしまして」

 と、素早くわたしの頭のてっぺんにキスを落とした。
 わたしが驚いて立ち止まると、カナは楽し気にクスクス笑みをこぼした。
 
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