15年目の小さな試練
「沙代さん、ハルをよろしくね?」

「ええ、もちろんですとも」

 家を出る前に、わざわざキッチンに顔を出したオレの言葉を聞くと、沙代さんはクスリと笑った。

「言われなくても気にかけてますよ。心配しなくても大丈夫ですから、お勉強頑張ってきて下さいね」

「はーい」

「お嬢さまがいないと不要かもと思いましたが、お弁当です。いらなかったら、お昼に私がいただくので置いていって下さいな」

「いるいる。ありがとう」

 弁当を受け取り、背中にかけたデイパックを下ろして底にしまう。

「沙代さんのご飯、本当に美味しいよね。今度、あれ教えてよ」

「どれですか?」

「蓮根入りのつくね。すごく美味しかった」

 シャキシャキしてるのにふっくらしてて、薄味なのにしっかりうま味が出ていて、小さなつくね団子はハルもすごく美味しそうに食べていた。

「ありがとうございます」

 沙代さんは嬉しそうに笑顔を浮かべた。

「では、今度のお休みにでも作りましょうか?」

「うん。ハルの昼寝時間に!」

 オレの言葉に沙代さんはまた笑う。

「はい、そうしましょう。材料、用意しておきますね」

「お願いします! じゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃいませ。……今日は自転車ですか?」

「うん」

 高校の奥にあって若干遠くなったとは言え、ハルがいなきゃ当然自転車通学だ。

「お気をつけて」

「はーい」


< 195 / 341 >

この作品をシェア

pagetop