15年目の小さな試練
「……あ」

 一限目の授業が終わってすぐ、スマホを確認すると沙代さんからメールが届いていた。

 そこに書かれていたのは、ハルが入院したという報告。熱が高いから様子を見るための入院で、心配はないとのこと。そんな訳で、入院しているのもいつもの病室だと言う。

 だからって心配せずに済むわけでもない。
 熱があっても調子がそんなに悪くなければ、家で様子を見るんだから。

 今すぐ帰ってハルの側に付き添いたい!

 ……とは思えども、許されるはずがないわけで。

 思わずため息を吐くと、オレの様子をうかがっていたらしい河野が、

「何かあった?」

 と聞いてきた。

 木曜の朝イチは専門の講義。で、何となく山野先生の授業のメンバーで固まって受けていた。授業が始まる前にオレが話したから、ハルが熱を出してお休みというのは、みんな知っている。

 だから、隠す必要もないよな、

「ハルが入院したって」

 そう思って答えた瞬間、

「え!?」

「マジ!?」

「入院!?」

「大丈夫!?」

 四人から同時に返事が返ってきた。

 どうやら、河野以外もみんな、話に耳を傾けていたらしい。
 そっか。ハルの病気が心臓病だってのは、まだ言ってなかったんだっけ。

 高校までのクラスメート辺りとは違う反応が、少し新鮮だった。

「ああうん、大丈夫。割といつもの事だし」

 心配をかけないようにと思ってそう言うと、逆に四人の声がなくなり、なんか失敗したなと思う。

 考えてみれば、入院がいつもの事って、普通はあんまりないよな。4月、5月は大きく体調を崩すことはなくて、入院は3月以来。上手く体調をコントロールできていたと思う。
 ただ、これからハルの苦手な夏が来る。今くらいから秋の終わりまでは、多分、体調は下り坂。例年通り、何度も入院して治療する事になる気がする。

「えっと、取りあえず、移動しながら話そうか?」

 次の講義は一般教養だから、それぞれ違う教室になる。とは言え、途中までは一緒に歩けるし、少しくらいは話せるだろう。

 ハルの病気のことと、これから、休みが増えるだろうと思うこと、きっと話しておいた方がいい。
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