15年目の小さな試練

不安と決断

「陽菜ちゃん、食欲ない?」

 看護師さんのその言葉に思わず、

「……ごめんなさい」

 と声も小さく答えると、

「謝る必要はないよ」

 と笑われた。

 夜中から熱が出て、朝、ママに軽く診てもらった後、病院に連れて来られた。
 朝一番に主治医の先生の診察を受けて、その場で入院が決まった。その後、幾つかの検査をして、いつもの病室に入ったのは十時過ぎ。

 それから一眠りして、昼食だと起こされて間もなく、昼食のおかゆが出てきたのだけど……。

「熱高いもんね。食欲も出ないよね」

 手に持ったスプーンは二口目のおかゆをすくったまま、かれこれ十分以上が経過していた。
 病室に十分前から看護師さんがいた訳じゃないけど、わたしが目の前のおかゆに困っているのは一目瞭然みたい。

「じゃあ、点滴で栄養取ろうか」

「……お願いします」

 そう返事をすると、看護師さんは、

「準備するから、待っててね」

 と早速、部屋を出て行きかけてから、

「あ、もし果物とか、食べたいものがあったら、持ってきてもらってもいいからね?」

 と付け足した。

「はい」

 そう答えつつも、今日は果物も食べられる気がしなかった。
 ……それでも、口から何か食べなきゃいけないんだろうな、とは思う。

 夕方、カナに家にある果物、持ってきてもらおうかな。

 そんな事を考えながら、ケータイに届いたカナからのメールを思い出す。

 相変わらず、わたしへの心配にあふれた文面だった。ただ、病院にいるのなら安心だとも書かれていた。

 日曜日までに退院できたらいいな。そうしたら、月曜日から学校に行けるかな?


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