15年目の小さな試練
 気が付いたら昼食は一口しか食べないままに眠ってしまったようで、目が覚めると、おかゆの乗ったトレーはなくなっていた。代わりに増えていたのは栄養剤の点滴。

 カーテン越しに、夕方前の独特な日が差し込み、病室を照らしていた。
 壁の時計を見ると、間もなく夕方の4時という時間。

 沙代さんかもう一人の通いのお手伝いさんが来てくれたみたいで、病室の片隅には入院用の荷物を詰めて家に常備していた小さなスーツケースが置かれていた。
 多分、中に入っていたタオルやパジャマはクローゼットに移してある。

 それから、きっと、もう少ししたらカナが来る。

 点滴のおかげか、酸素吸入のおかげか、少し眠ったおかげか、身体は大分楽になった気がする。
 ただ、氷枕は新しくしてもらったみたいでよく冷えているし、酸素マスクも心電図モニターも外されてないから、多分、熱は下がっていない。何より、朝方の息苦しさは大分減ったけど、身体は依然重怠くて仕方なかった。

 そう言えば、カナに果物持って来てって、メールしそびれちゃった。
 それどころか、メールの返事もしていない事を思い出す。
 カナは気にしないと思うけど、心配してるだろうと思うと申し訳なくなる。

 今からでも書こうかな?

 そう思いながらも、携帯電話に手を伸ばすこともできないまま、また、ふわりふわりと眠りの精が訪れる。

 次第に視界がぼやけ、まぶたが自然と閉じていく。

 ……ああ、本当に調子が良くないんだ。どれだけでも眠れそう。

 そんな事を思いながら、わたしの意識はプツンと途切れて暗闇へと落ちていった。



    ☆    ☆    ☆


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