15年目の小さな試練
 降り際に、

「そういえば」

 と、えみちゃんが顔を寄せてささやいた。

「ハルちゃん、本番はあんまりできなくても、旦那さまを満足させられる技もあるからね。いつでも聞いてね」

「…………え?」

 にんまりと笑ったえみちゃんが言ったその言葉が、きっと、そっち方面の話なのだと理解するまでに、たっぷり十秒はかかった。

 その間に、えみちゃんは車を降り、代わりに助手席に座っていたカナが後部座席に移ってきた。

「ハル、大丈夫?」

 多分、わたしの顔は真っ赤に上気していて、目には今にもこぼれ落ちんばかりに涙が浮かんでいて……。

 カナに覗き込まれて思わず両手で顔を覆い、カナを大いに心配させながら、わたしたちは車で数分の自宅に戻った。

 えみちゃんの言葉のいくつかは衝撃的で、どう受け止めていいのか分からなかった。

 だけど、大学に入ってから知り合った子と、何の手加減もなく、何の気遣いもなく交わした会話は、本当に楽しくて、ああ、大学生になったんだと、授業以外で初めてそんなことを実感した。
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