15年目の小さな試練

お願いと忠告

「兄貴、今週のピアノはお休みでお願いします」

 火曜日の夜、叶太から電話がかかってきたと思ったら、開口一番そんな内容。

「え? なんで?」

「いや、ハル、昨日まで入院してたし」

「ああ。今日から大学だっけ? ハルちゃん、疲れちゃったかな? 調子悪い?」

 高熱が下がらず入院したと聞いていたけど、昨日退院して、今日は大学に行ったと言うから安心していたけど。

 GWのインフルエンザ騒ぎからこっち、叶太は何かにつけてハルちゃん情報を俺に送ってくる。何かあったらサポートしろという事だと思って、謹んで拝聴・拝読している。

「いや、元気だけど」

「そりゃ良かった」

「だけど、今週はのんびり身体を休めさせたいから」

「ああ、先生から言われた?」

 医者の言う「無理しないように」の『無理』をどこまでと取るかは悩ましいけど、そう言われたら、まあ、一週くらい休ませたいよな。

「……いや、いつも以上には言われてないけど」

 なるほど。

 だから、「今週のピアノは休みだよね?」だったわけか。
 医者から止められているのでもなければ、ハルちゃん、やるって言うだろうしな。

 少し前の俺なら、多分、叶太の意をくんで休みにしていたかも知れない。

「ハル、練習もしてないし」

「いや、それは大丈夫。元々、あんなに真面目に練習してくるって方が想定外だったから。ってか、先週で最初の曲が終わったから、今、何の課題も渡してないし」

 叶太は言葉に詰まり、一瞬、黙り込む。
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