15年目の小さな試練
 俺は、「了解」のメールを打ちかけて、途中で思い立って、着信履歴から叶太の番号を出して電話を鳴らした。

 少しばかり長い呼び出し音の後、

「ごめんね。お待たせ」

 とスマホの中から、叶太の声が聞こえてきた。

「いや、こっちこそ、ごめんな。寝室にいたんだろ?」

「うん。ハルの寝顔見てた」

 嬉しそうな声に思わず笑みが浮かぶ。

「あのさ、叶太」

「なに?」

「俺が言うのもなんだけど、ハルちゃんが心配なら、少し、勉強をセーブさせたら?」

 そう。

 本当に、俺が言うのもなんなんだけどな内容。
 ハルちゃんが楽しそうにしているのを知っているから、本当は口出しなんかしたくない。

「……それって、山野先生の授業のこと言ってる?」

「そうそう」

 あれは、ちょっと普通じゃない。

 だけど、ちゃんと解けていて、本人は楽しそうにしている。だから、これまで何も言わなかった。

「……兄貴、あれ、どう思う?」

「いや、おかしいよね? 正直、なんで、一年生であんな課題出されてるんだって思うよ?」

「難しい?」

「新入生にとったら、難しいなんてもんじゃないでしょ。

 ……と思うけど、ハルちゃん、ちゃんと解いてるんだよな~。しかも、模範解答みたいな綺麗な正答。

 中には、俺でもおっこれはスゴいって思うような回答もある」

「……だよね」

 ため息交じりの叶太の声に、叶太自身もどうしたものかと悩んでいたのがうかがい知れる。
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