15年目の小さな試練

断罪の時

「なんで、兄貴だけ……」

 夜九時過ぎ。
 目の前にはハルちゃんが眠った後、実家に戻ってきて愚痴を言う弟、叶太がいた。

 本人も、ハルちゃんの意志が固いのは分かっているみたいで、俺にどうしろとは言ってこない。

 だからこそ、むしろ不憫でつい笑いが漏れる。

「……ひっど。笑うかなぁ」

 ふてくされて、リビングの机に突っ伏しながら、叶太はつぶやく。

「まあまあ、ハルちゃん一人で行くよりはよかっただろ?」

「そう、それ! 兄貴を連れてくなんてやめてよとか、連れてくならオレにしてとか言って、じゃあやっぱり一人で行くって言われたら大変だから諦めたんだからね?」

 なるほど。
 やけに諦めが早いと思ったら!

「だから~、なんでそこで笑うかなぁ」

「いやごめん。ホント、ぶれないなって思って」

 いかん。
 ……笑いがおさまらない。

「ちょっと、兄貴……」

「悪い悪い。えっと……で、何の用だっけ? 愚痴を言いに来たんじゃないよな?」

「そう。打ち合わせをしておきたくて」

「打ち合わせ?」

「うん。だって、月曜日に行くことになったでしょ?」

 今日の午後、早速、山野先生に聞いてみたところ、月曜日の夕方ならと返事をもらった。
 なんで俺の妹がって思ったみたいだけど、日時だけが決まったタイミングで先生に電話が入ったため、話はアポ取りまでで終わった。

「ああ。月曜日の四時半」

「だったら、すぐだからさ、ちゃんと打ち合わせしなきゃと思って」

「いや、……なんの?」

「え!?」

 叶太が信じられないものを見るような目で見てくる。だけど、悪いけど何の事やら。

「俺はハルちゃんに付き添って、隣に座ってればいいよな?」

 叶太はそんな俺の答えを聞くと、驚いたように目を見開いて俺を見てきた。
 叶太の眼力は、けっこう強くて焦る。

 まさか、兄貴、冗談だよね?
 副音声で叶太のそんな声が聞こえてきそうだ。

 結局、俺はコイツに甘い。そう思いながら、気が付くと俺は苦笑しつつも、

「……で、叶太は俺に何をさせたいの?」

 と口にしていた。



    ☆    ☆    ☆


< 297 / 341 >

この作品をシェア

pagetop