15年目の小さな試練

エピローグ

「……ったく。お前がついていながら」

 いつの間にか梅雨も明け、季節は初夏となり、窓の外には晴れ渡る青い空。

 ベッドにはスヤスヤ眠るハル。顔色も呼吸状態も悪くない。
 朝ご飯も昼食も、完食とはいかないけど八割方食べられた。

 そんなハルを遠目に見ながら、病室のソファでオレは明兄に絶賛叱られ中。

「ごめんね」

 オレは言い訳することもできずに、うなだれるしかなかった。

 春から続いたあれこれに片が付いたその夜、つまり山野先生の研究室に行った日の夜、ハルは体調を崩した。

 張りつめていた緊張が解けて、疲れがどっと出たようで、夜中に発作を起こして救急搬送。
 入院後も不整脈がなかなか治まらないし、熱は高いし、本当に心配した。

 だけど、ようやく昨日、点滴も酸素マスクもすべて取れて、このまま何事もなければ明日には退院予定。

 明兄がハルの様子を見に帰郷したのは、そんな土曜日の午後だった。

「大体、お前、なんで相談して来なかったの?」

 あ、それで怒ってるの、明兄?

「山野、だっけ? 叩けば幾らでもホコリが出るだろ」

 確かに明兄に相談したら、いつの間にか担当の先生が変わってるとか、十分にありそうだ。
 実のところ、それも考えないではなかった。

「……でもさ、ハルがあんまり楽しそうだったから」

 オレの言葉を聞いて、明兄は眉をひそめた。それから、ハルの方に目を向けると、ふうっと長く息を吐く。
< 323 / 341 >

この作品をシェア

pagetop