15年目の小さな試練
「だから、彼女を作ったことはない。……はっきり言って、鬱陶しい」

「ん?」

「言い寄ってくる女」

「……ああ」

 明兄くらい優良物件だと、そりゃ、色々アプローチも受けるだろう。そして、そういう条件に釣られてくるような女は、正直鬱陶しいに違いない。

「どうせいつかは結婚しなきゃいけないだろうとは思ってる。だけど、それまでは自由にさせてもらうつもり」

 自由に女遊び、じゃないよな。自由に……何をするんだろう?

 自由に……ハルを可愛がる?

 え? もしかして、思う存分、ハルを可愛がらせろ、ってこと!?

 明兄は小さくため息を吐くと、静かに立ち上がった。
 そして、おもむろにオレの頭をガツンと殴って、そのままもう一度イスに座る。

「えっ! なに?」

「そんなに不安そうな顔するな」

 明兄はわざとらしくため息を吐くと、呆れたように

「お前、陽菜の夫だろ」

 と言った。

「年に数回、妹をかまうくらいさせろ」

「……あー、うん。……ごめん」

 少しばかり大きな声で騒いだからか、ハルが目を覚ました。 

「……ん」

 ハルの長いまつげがふるりと何度か震えて、程なく目を開ける。

「おはよう、陽菜」

 ハルは至近距離に明兄を見つけると、とっても不思議そうな顔で何度か瞬きした。

「……あれ? ……お兄ちゃん?」

 今日の明兄の訪問は抜き打ちで、オレも来るまで知らなかった。
 ハルはそこにいる明兄が本物かどうかを確かめるかのように、明兄に手を伸ばした。
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