15年目の小さな試練
 明兄はそんなハルの手を取ると、とろけそうな優しい笑顔を向ける。

 いつもの明兄しか知らなかったら、こんな表情見せられたら一発で落ちるだろうってくらいの愛に満ちた笑顔。

 これを見せるのが妹だけっつーんだもんな。

「具合はどう?」

「うん。もう元気だよ」

「元気はないだろ」

 そう言いながら、明兄はハルの頭を愛しげになでる。
 確かに元気と言える程、調子が戻っている訳ではない。だけど、ハルは明兄に笑顔を見せる。

「でも、明日には退院予定だから」

 本当なら、もう少し入院しておいて欲しいと言われたのだけど、学校に行きたいからとハルが無理を通した。春から二度目の入院だし、それ以外にも欠席が募っていて、出席日数が心配らしい。

「そっか。無理するなよ?」

「うん」

 ハルが身体を起こそうとすると、明兄はリモコンを手にとって背もたれを起こす。

「ありが…とう」

 ハルは手を口元に持って行くと、ふわぁっと小さなあくびをした。

「ハル、何か飲む?」

 時刻はまもなく午後三時。
 お茶にはちょうどいい時間だ。

「あ、カナ」

 明兄の後ろにオレの姿を見つけて、ハルはニコッと嬉しそうに表情を緩めた。
 明兄の背中から、若干の怒りを感じる。

 ……ごめん。
 もしかして、オレ、邪魔?

 たまの兄妹の時間、邪魔するな? だよね~。

 ただでさえハードな医学部のしかも最終学年。本当なら、何時間もかけて帰郷してる時間なんてないよな。

 そんな中、ハルのことを忘れず、気にかけてる明兄。
 やっぱり、年数回程度のハルとの貴重な時間、邪魔しちゃダメだよね。
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