15年目の小さな試練
「えーっと、明兄もなんか飲む? 用意するよ」

「じゃ、豆轢いて入れたコーヒー」

 ……明兄、それ多分、嫌がらせだよね?

「ごめん。それはない」

「用意しとけよ」

「んー、でも、コーヒーはハル、飲まないしなぁ」

 ね、ハル?

 と明兄の後ろからハルをのぞき込むと、ハルは少し困ったような表情。

 まさか、ハルが豆も用意しておけって思ってるなんてことはないだろうし、明兄の無茶ぶりに困っているのだろう。だけど、明兄がオレに無茶を言ったりからかったりするのは、割といつものことだからか、ハルは何も言わなかった。

「でも、ドリップコーヒーならあるよ」

 そう伝えると、明兄は仕方ないとばかりに、

「それでいい」

 と言う。

「ハルは何がいい? ピーチティーとかストロベリーティーとか、後、カモミールティーとかもあるよ」

「えーっと、……お水でいいよ?」

「水? 麦茶もあるけど」

「じゃあ、麦茶」

「了解。ちょっと待っててね」

 オレは明兄の横から手を伸ばして、ハルの頭をなで、明兄に小突かれる前にスッと手を引き、ミニキッチンへと移動した。

 お湯の準備をしながら二人の方を見ると、明兄は慈愛に満ちた優しい表情でハルに何か話しかけていた。

 兄貴なら幾らでも邪魔できるけど、明兄がハルを可愛がるのは邪魔できない。二人の間には、オレよりも長い歴史がある。正真正銘、この世に二人きりの兄妹なわけだし……。

 それに、なんか、明兄からハルを取り上げたらダメだって、そんな気がするんだよな。オレが明兄を邪険にしたら、ハルも困るだろうし。

 仕方ないだろ?

 オレは明日も明後日もその次も、ずっとハルと一緒なんだから。

 そんな事を自分に言い聞かせながら、オレはコーヒーと麦茶の準備をしながら、二人の様子をそっと見守るのだった。



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