15年目の小さな試練
 深夜0時。
 ハルが起き出す音で目が覚める。

「ハル?」

 オレが急いでハルのベッドへと向かうと、

「……トイレ行ってくるね。寝てていいよ?」

 ハルはゆっくりとした動作でベッドに腰掛けながら、眠そうな声でそう言った。

「待ってる」

 ハルが立ち上がるのに手を添え、ハルを病室内のトイレまで送り届ける。
 どんなにハルが遠慮しても、オレがハルから離れることはないと、十ヶ月ほどの結婚生活でよーく理解したはずなのに、未だにハルは毎回こんな風にオレを気遣う。

 多分、それは、手を離すのに遠慮する必要はないという意思表示。

 オレが病室に泊まることだって嬉しいと言いながらも、ハルは毎日必ず、帰っていいんだよと口にする。
 それは少し寂しくもあり、ハルらしさを感じて切なくもなる瞬間でもある。だけど同時に、オレを労わってくれるハルの深い愛を感じる時でもある。

「お待たせ」

 出てきたハルを

「お帰り」

 と、抱きしめキスをし、そのまま抱き上げる。
 横抱きではなく、縦抱き。

 この入院生活で、また少し軽くなったハル。

 ただでさえ、これからの季節は食欲が落ちる。帰ったら、沙代さんに、ハルが好きそうな口当たりが良い料理を教えてもらおう。
 冷たいスープとかいいかも知れない。いや、お腹を冷やしそうな気がするから、やっぱり冷たいのはダメかな?
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