15年目の小さな試練
「歩けるよ?」

「知ってる」

 だけど、離したくない。

 歩くのもリハビリの一つだし、筋力を落とさないためにも動くのが大切だと言うのは重々承知。でも、こんな深夜にリハビリを考えることもないだろう?

 ハルは仕方ないなと言わんばかりに、小さく笑い、抵抗はしなかった。

 ベッドに下ろすと、ハルはベッドに腰掛けたまま、オレを見上げた。
 常夜灯の薄明かりにハルの真剣な表情が浮かぶ。

「どうした?」

「……ごめんね」

「ん? なにが?」

 トイレに起きたハルに付き合うのは家にいても、いつものこと。
 ましてや、入院中にオレの過保護が一段増すのはハルも承知している。

 じゃあ、この「ごめんね」は何への謝罪?

「ハル、取りあえず横になろうか?」

「……あ、うん」

 オレはハルがベッドに入るのを待って、布団をかける。
 ハルは小さくあくびをする。

「あのね」

 眠そうなのに、ハルが言葉を続けようとするので、オレは枕元のイスに座ることにした。

「うん」

 布団の上に置かれたハルの手をそっと握る。

「色々、心配かけて、ごめんね」

「いや……どうしたの、急に?」

「ん……カナ、きっと色々言いたかったんだろうなと思って。……我慢してくれてたよね」

 ああ、山野先生の話か。

 研究室に話に行った後、お互いにその話はしなかった。
 ハルは心の中の整理が付いていないみたいで、とても疲れた顔をしていたし、オレ自身もハルに投げつけられた言葉への怒りが渦巻いていて、とても冷静には話せない気がしていたから。
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