15年目の小さな試練
 そして、その夜、ひどい発作を起こして入院したハル。
 入院後しばらくは長話ができる状態でもなかったし、話しそびれていた。

「あーでも、結局止めたし、……止めたのも遅すぎた気がしてるし」

「ううん。……本当に、ありがとう」

「ん?」

 お礼を言われるようなこと、したっけ?

 首を傾げていると、ハルは身体を横にして、全身でオレの方を向いてくれた。

「待っていてくれて、ありがとう」

「……待っていて?」

「うん。カナ、ギリギリまで待ってくれたよね。すごく我慢してたでしょう?」

 ハルの言葉を聞いて、思わず苦笑。

 だよな。見てれば分かるか。

「……あー、ごめん」

「なんで謝るの?」

 本当に分からないといった表情でハルが不思議そうにオレを見る。

 いやだって、言いたくても言わずにいるのが丸分かりなのって、言葉にしないだけで、無言でプレッシャーかけてるようなもんじゃないかな……。

「あのね、わたしがやりたいようにさせてくれて、やりたい気持ちを分かってもらえて、嬉しかった」

 ハルがもう一つの手も添えて、オレの手を包み込むようにして、キュッと力を入れた。

「それからね、カナ、わたしが自分で話しに行くのも許してくれたよね。そういうの、色々合わせて、多分、わたし、納得できたんだと思う」

「納得?」

「うん。……山野先生……普通じゃなかった」

 真摯に向き合おうとしたハルを怒鳴りつけた山野先生。

 さすがに、あの時はついていくと強く主張しなかったのを後悔した。だけど、多分、その後悔も分かった上での、ハルの「ありがとう」。
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