15年目の小さな試練
「……ホント、おかしいよな」

「ん。……でもね、頑張るところまで頑張ったから、この水準をわたしに求めるのはおかしいって分かったんだと思うの」

「確かに。オレなんか、ハルがもらってた課題は、最初の方のだって何聞かれてるのか分からなかったけど」

 そう言うと、ハルはクスリと笑った。

「カナも……みんなもそう言ってたね」

 ハルはまるで解けない方が不思議だというように、そう言う。

「そうだね。あれを一年生に解かせるのは、おかしいのかも知れないね。だけど、本を読んで予習していたおかげだろうけど、わたしには、そんなに難しくなかったんだよ。ただ、楽しくて面白くて……」

「だよね。いつも、ハル、すごく楽しそうだったもんね」

 そう言うと、ハルは少し切なげな笑みを浮かべた。

「だから、もし途中で、まだ体力的に頑張れるところで止められてたら、わたし、自分の身体のせいで、せっかく与えられた機会を活かせなかったんだと、思ったんだろうなって……」

「……ああ、そっか」

 ようやくハルの言いたいことが理解できた。

 そんな事ないと誰が言ったって、山野先生はハルがギブアップしたと見るだろうし、ハルは自分に、……自分の病気に負けたと思ったのだろう。

「ハル」

 思わず、ハルの頭に手を伸ばす。

「頑張ったね」

 そう言って、そっと頭をなでると、ハルは花がほころぶように嬉しそうな笑みを浮かべた。

「ありがとう」
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