15年目の小さな試練
「それから、お疲れさま」

「……カナも、お疲れさま」

「ん? オレは何もしてないよ?」

「わたしに振り回されてたでしょう?」

「え? いつ?」

「いつも」

「……何のこと?」

 首を傾げると、ハルはおかしそうに笑った。

「いつだって、ずっと気にかけてくれていたし、今だって、病院に泊まり込んでるし、わたしが目を覚ましたら、夜中でも一緒に起きてくれるし、ここに来た日だって、わたし、ほとんど覚えてないんだけど、けっこう大変だったよね?」

「んー、ハルが倒れたら、そりゃ心配はするけど、振り回されてはいないよ? 病室に泊まるのだって、寂しいからだし」

「わたし、大丈夫だよ」

「いや、オレが寂しいの」

 勘違いを即刻訂正すると、ハルは目を丸くして、それから嬉しそうに笑った。

「本当はさ、ここに潜り込んでハルを抱きしめて眠りたいくらいだけど、さすがにそれはダメだから我慢してるんだよ、これでも」

 そう言って、布団を軽く持ち上げると、ハルはくすくす声を上げて笑う。

 冗談じゃないんだけどな~。

 そう思っていると、ハルは内側から布団をそっと持ち上げて空間を作った。

「入る?」

「え!?」

「少しだけ」

 ハルがオレの手を引く。

 なんか、どっかで見たようなシチュエーション。

 あ、結婚前に、沙代さんがいない夜、具合を悪くしたハルに呼ばれた時だ。あの夜もハルに誘われて、どうしても断れなくて一緒にベッドに入って、ハルが眠ったら出るつもりが、つい眠り込んで……。

 でもって、翌朝、お義父さんに見つかって……。 
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