15年目の小さな試練
「いや、でも、さすがにダメでしょ」

 今は夫婦だから、一緒に寝るのはある意味、いつものこと。

 だけど、ここ病院だし。
 いくら明日には退院予定だと言っても、さすがにダメだろう。

「小さい頃は、よく一緒に寝たよね?」

「あー。小学生の低学年……くらいまでかな?」

 検査入院の時とか、退院間近な時期とか、ベッドの上でおしゃべりしたり絵を描いたり、トランプしたり……。

 気が付いたら、二人一緒に丸くなって眠っていたりとか、あったよなぁ。

「懐かしいな」

「……ね?」

 そうして、ハルはまたオレの腕を引く。

「ハールー、正直嬉しい! オレもハルと一緒に寝たいしね? だけど、狭すぎでしょ、ベッド」

 あの頃からするとオレたちは大きく成長した。なのに、病院のベッドは同じ大きさのシングルサイズ。家のセミダブルで一緒に寝るのとは違うだろう。

「……そうかな?」

 ハルはそう言うと、もぞもぞとベッドの反対の端に移動した。

「どうぞ」

 そして、ニコッと笑って、開いたスペースを手のひらでトントンと叩いた。

「えーっと、ハル。明日の夜には自宅で一緒に眠れるよ?」

 それでもオレは抵抗を試みる。

 もう、微笑ましいで済ませられる年頃でもない。
 点滴も酸素もモニターも外れ、退院前日の今。容態は落ち着いているし、夜間の見回りも多くはないだろう。だけど、朝まで誰も来ないということはないはずだ。
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