15年目の小さな試練
「……ダメ?」

 どう誘っても、オレが動かないと分かったのか、ハルは寂しそうにオレを見上げた。

 ……だから、ハル、ダメだってば。
 オレ、ハルが本当に望んでいるのなら、どんな事でも叶えたくなっちゃうんだから。

 結局、オレは空いてる手でハルの頭をなでると、

「5分だけね」

 と口にしていた。

「……眠るまで、いて欲しい」

「どうした? やけに甘えん坊だね」

 こんなおねだりは初めてだ。

 オレは驚きつつも、そっとハルのベッドに上がった。
 手を伸ばすと、ハルはそのまますっぽりオレの腕に収まった。

 ……ああ、ハルだ。

 その温もりを全身で感じ、オレは心の奥底まで、頭のてっぺんからつま先まで、満たされた気分になる。

「……なんか、夢見が…悪くって」

「夢?」

「……ん。……寝入り…ばなに…変な夢……見る」

 ハルは途切れ途切れにそう語った。眠りに落ちそうになりながら、オレの胸に頭をすり寄せるハル。

「そっか。じゃあ、変な夢を見ないように、オレがずっと話しかけてようか」

 珍しく甘えてくるハルの背をそっとなでる。
 なでながら、

「ハル……大好きだよ」

 そう言って、ハルの髪にほおを寄せた。
 今日の午前中に髪を洗ってもらったハル。いつものラベンダーの香りがふわりと香った。

「あり…が、と……。わたしも、……カナ、大好き」

 ハルはそう言った後、ふわぁっと小さなあくびをした。

 楽しいこと、楽しいこと。
 ハルの悪夢を吹き飛ばすような楽しいことって何だろうと考えて、ふと思い出した。
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