15年目の小さな試練
 俺だって親父を尊敬してはいる。だけど、こんな風に無条件な好意を表には出せない。男女差なのか、親子関係の差なのか?

 うん。少なくとも、明仁がおじさんにこんな笑顔を見せるとは思えないし、女子大生で父親を心の底から敬愛してる子がそういるとも思えない。だから、きっとおじさんの愛の賜物だろう。もしくは、素直極まりないハルちゃんの資質。

「じゃあ、待ってるね」

 満面の笑みを浮かべたハルちゃんは冗談抜きで可愛かった。

 この笑顔を守りたいと思う叶太の気持ちが、少し分かってしまった。

 思わず頭をなでると、ハルちゃんはまたふわっと蕾が花開くように、優しい笑みを見せてくれた。



 一、二限目の演習1、山野先生の授業で、実習助手としてグループワークの手伝いに入った。普段は自分の研究室の先生の授業にしか入らないから、ちょっと珍しい事だ。たまたま人数が足りなかったらしいくてうちの教授経由で依頼があった。

 最初は座学。そこは後ろの方で出番待ち。今日はマーケティングらしく、基本的な知識を先生が説明する。

 懐かしい。

 マーケティングについての細かなところは入門の授業で習うけど、この授業のグループワークに必要な事は授業の頭に簡単に説明してくれる。今聞くと、とても基本的で簡単な内容だと感じるけど、5年前の入学当時は俺だってよく分からなくて、かなり真面目に聞いていた。今年の一年生もちゃんと真剣に聞いている。もちろん、ハルちゃんも。
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