15年目の小さな試練
「でも、……ね、晃太くん、いつもより顔色も悪いよね?」

「そう? こんなもんじゃない?」

 ハルちゃんも叶太同様、心配性?

 いや、そうじゃなくて、もしハルちゃんが38度以上の熱が三日も下がらなかったら、多分、大事なんだろうなと思い至る。

 ハルちゃんにとっては熱が下がらないのは、割と日常茶飯事だろうけど、熱がある状態で元気という経験はないのだろう。まあ、それは俺も同じだけど。

 普通、多少なりともぐったりするよな?

「ビデオカメラ越しだから、いつもと違って見えるんじゃない?」

 そう言って、叶太がハルちゃんにとろけそうな笑顔で笑いかける。

 ああもう!

 自分の身内のこんな顔を見せつけられる俺の気持ちにもなってくれ。

 俺、この場にいる必要ある?

 むしろ邪魔者じゃない?

 なんて思って、そっと部屋を出ようか考えていると、叶太から声がかかった。

「兄貴、いる?」

「ああ、いるよ」

 ハルちゃんの後ろから顔を出して手を振ると、叶太の表情がきゅっと引き締まった。
 うん。こういう顔してたら、結構こいつもいい男だよな。

「ちょうどいいから、明日のこと教えてよ」

「ん?」

「明日の予定。明日は朝も帰りも大丈夫だよね?」

「ああうん」

 俺は大丈夫だけど、叶太、それを今ここで話すのはちょうどいいどころか、ハルちゃんに断られる可能性が出ちゃうんじゃないかな?

 と言葉を濁していると、叶太はそのままいつものモードに突入する。

 ハルちゃんの明日の予定の確認、諸注意事項、間に今日のハルちゃんの様子の確認。

 いつもの十分の一ほども終わらない内に、呆然としていたハルちゃんが正気に戻った。
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