15年目の小さな試練
「カナ!?」

「ん? ハルも何か要望あったら言ってね」

 待て待て、叶太! それはハルちゃん、怒るぞ!?

 お前にとって俺は兄貴で、多少の我が儘を言っても平気な相手だろうけど、万事控えめなハルちゃんが俺に同じ事をするのは無理だろ!?

「あのね、カナ、」

 ハルちゃんが言葉を紡ぐ前に、俺はつい口を挟んでしまった。

「叶太!」

 ハルちゃんが大きな目を驚いたように見開いて、俺を見上げた。

「……晃太くん?」

 カメラの向こうの叶太も不思議そうな顔をしている。

「兄貴?」

 お前は察しろよ?

 と思うけど、元気そうに見えても、こいつは現在進行形で病人だ。多少思考回路がおかしくても仕方ないかと思い至る。

 さて、なんて言おう。

「久しぶりに顔を見た愛しい奥さん放って、俺と話してちゃダメだろ?」

 うん。俺は何を口走ってるんだ。

 だけど、この言葉は意外と叶太を正気に戻し、ハルちゃんは言葉の意味を理解すると、真っ赤になった。

 叶太を我に返らせ、ハルちゃんの気を逸らすのは成功したらしい。

「じゃあ、俺はそろそろ帰るよ」

 後は二人で楽しんでね、と続ける予定だったのに、真っ赤な顔をしたハルちゃんが、

「あ、じゃあカナ、またね」

 と通話終了を告げる。

 そして、ハルちゃんは「え? ハル?」と驚く叶太にバイバイと手を振ると、無情にも通話終了ボタンを押した。

 あーあ。あれはかなりショックを受けてるぞ。

 後から文句言われそうだ。なんて考えてると、椅子から立ち上がったハルちゃんは、俺を見上げて言った。

「晃太くん、えっとね」

 ああ、この先に続く言葉が想像できる。

「うん?」

「朝も話したけど、明日からは送り迎えとか、いいからね?」

 いやでもハルちゃん、俺、さっき叶太に約束させられたところだし。

 と言うのは逆効果だろうな。
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