15年目の小さな試練

下がらない熱

 火曜日の夕方、ハルとの初ビデオ通話に喜んでいたら、兄貴の帰るという言葉でサクッと通話終了ボタンを押されてしまい、オレはしばらく呆然とした。

 頼むよ、兄貴!

 と思ったけど、そもそもハルの顔を見て話せるようにしてくれたのが兄貴だから、文句を言うのも違うと思って、一人悶々とした。

 夜、ハルに身体は大丈夫か心配するメールを送ったら、少しして、メールではなくビデオ通話の着信があった。
 普段、電話をしてこないハルの気遣いがどこにあるのか理解していたつもりだから、驚きつつも喜んで電話に出ると、開口一番叱られた。

「カナ! わたしのことはいいから、ちゃんと身体を治すために、頭も身体も、心も休めて!」

 発症から間もなく丸三日。恐ろしいことに、まだ熱が38度より下がらない。

 熱が下がらないのは確かだし、もしこれがハルだったら大事だとは思う。
 だけど、自分に関して言えば、熱があるだけで元気な訳で、ハルがなんでこんなに怒っているのかが分からない。

「えーっと、ハル?」

 それにしても、ハルは怒った顔も可愛い……って言ったら、怒るかな?

 なんてバカなことを思いつつも、オレを本気で心配してくれているらしいハルに、何だか申し訳なくなってくる。

 抱きしめて慰めたい。

 そんな事をのんきに考えていると、一転、ハルの声は小さく弱々しくなった。

「……カナ」

「うん」

 画面の向こうのハルが、真顔でオレをじっと見つめてくる。

「自分の身体のことを、一番に考えて?」

「えーっと」

 言葉の意味は分かる。だけど、それをしている自分のイメージがまったく湧かない。
 ハルは何を伝えたら安心してくれるだろうか?

「あのさ、ハル」

「……うん」

「熱は下がらないけど、オレ、割と元気だよ?」

 だけど、ハルは納得してくれない。
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