15年目の小さな試練
 お袋はオレの肩をポンポンと優しく叩いた。

「あのね、陽菜ちゃんを守りたいんだったら、まずはあなたが健康じゃなきゃダメなの。それは分かってるわよね?」

「うん」

「明日も熱が下がらなかったら、また一日会える日が先送りよ」

「……ん」

 ホント、それはいい加減勘弁して欲しい。

「知らない内に疲れをため込んで体調を崩して、こんな風に強制的に隔離されるのが嫌だったら、もう少し気を緩めなさいな。嫌でしょ? 陽菜ちゃんに会えないの」

「……うん」

 嫌だ。もし毎年、こんな状態になるなんて言われたら、オレ、耐えきれる自信ないし。

 だけど、気を抜くって、どうやるの?

 ハルを頭の中から追い出すなんて、オレにできる?

 お袋はオレの頭をくしゃっとなでた。

「とにかく、陽菜ちゃんの事は晃太が考えるから」

「え!? 兄貴が!?」

「できる限りの事はしてくれるって。だから、考えるのは晃太に任せて、あなたはその熱を下げる事だけ考えなさい」

 兄貴が本気で手を貸してくれるなら、大学があるのは残り三日だし、何とかなるかな? 同じ棟で授業受けてる時なんかは志穂にも応援頼んで……。

「叶太、あなた全然、分かってないのね」

 お袋は呆れたようにそう言うと、盛大にため息を吐いた。

「そうね。これがいけないのよね、きっと」

「え?」

 お袋は枕元においてあったスマホを手に取った。

「あの、……お袋?」

「治るまで、スマホとパソコンは没収」

「え!? ちょっと待って!?」

 そのまま有無を言わせず、お袋は机の上に置いてあったノートパソコンにも手を伸ばした。

「明日、陽菜ちゃんと話せそうな時間に、十五分だけ返してあげるから安心して」

 にこりと笑ったお袋の笑顔に絶句している間に、

「じゃあ、おやすみなさい。今度こそゆっくり休んでね?」

 と言いおいて、お袋は部屋から出て行ってしまった。


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