ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
言い返せるような台詞一つ持ち合わせてはいなかった。

あたしは唇を尖らせ、下を向く。

他の面々も、本当は彼が一番ヒメを救いたいと考えていることを百も承知していたので、誰もその押し問答には口を挟まなかった。

「結局、謎は謎のままか」

流れを変えるような調子でゴローが言い、肩肘を突きながらテーブルの表面を指でトントンと叩く。

あたしの目線はゴローのその手に吸い付いた。

彼の右手の甲、親指の付け根辺りに三センチ程の縫合した後のような傷跡がある。

「ゴローさん、その傷はいつから?」

まるでその場に相応しくない質問に、ゴローが怪訝そうになる。

「さあ、気が付いたらもうここにあった、という感じだけど。何で?」

「ええ」

彼の傷跡に既視感を得た気がしたのだ。

想起しようとすると、それを拒むかのように脳が痛みに見舞われる。

「大丈夫?」とサナエ。

「はい」と応じつつ、あたしはこめかみを揉んだ。

懸命に記憶を呼び覚ます。直ぐそこまで出掛かっているのに――。

「あっ、分かった!」その閃きに手を叩きそうになる。
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