ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
「あたし、そのゴローさんの傷跡見ました」

何を言い出すのかと、ゴローは問いたげだ。

「それは、まあ、前々からあるし、」

あたしは首を振る。

「創手に記憶を奪われそうになった時、何かの映像が見えたんです。その中に、それとそっくりな傷を持つ、子供の手を見た気が……」

「子供の手?」

「はい。あたしは犬を飼ったこともないのに、自分が犬を散歩している映像が見えたので、今際のきわの走馬灯にしてはおかしいなとぼんやり思っていたんです」

「犬の散歩?」とゴローが鼻の脇を上下に撫でる。

あたしの目線はテーブルの木目の上を低空飛行していたが、意識の方ではあの時見た映像が断片的に再現されていた。

「ええと、どこかの公園で、手に傷のある子が犬を散歩させていて、そんなに大きくない雑種の白っぽい犬です。で、立ち止まって、その犬の頭を撫でてやる……」

「あ」と言って目を瞬く。

「その犬の首輪に付いた迷子札に名前が、ゴローって書いてありました」

棒を飲んだように、メンバーの表情がぐっと張り詰める。
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