ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
その日は年末最後の大学入試公開模試の日だった。
12月半ばの街はクリスマス一色で、地元商店街の軒先もLEDのイルミネーションで飾られていた。
朝の光の中で見ると、それは安っぽい緑の電線が、支柱に絡まっているようにしか見えなかった。
受験生で、おまけに彼氏のいないあたしにとってクリスマスなど鬱陶しいだけのイベントだ。
サンタが枕元に〈合格〉を置いていってくれるのなら話は別だけど。
17歳のあたしは塾に向かって猛然と自転車を走らせていた。
あたしの第一志望は、都内にある名門私立大学の文学部国文学科だった。
前回の模試の判定があまりに芳しくなかったので、猛勉強したつもりだった。
だから努力の成果を試したいという気負いもあった。
それで深夜まで最後の詰め込みをし、寝過ごし、自分の詰めの甘さが露呈した次第だ。
薬屋の店先にある、日に焼けてくすんだカエルの人形が、サンタの扮装にされていた。
薬とクリスマスに何の関連性があろう。カエルのありがた迷惑そうな笑顔が、ちらりと目に入った。
交差点の青信号が点滅していた。この交差点を渡れば塾まで直ぐだ。
あたしは更にピッチを上げ、立ち漕ぎしながら無人の横断歩道を渡った。
クラクションも何の音もなしに、大型トラックのフロントの〈FUSO〉のロゴが横から急接近してきた。
自転車はタイヤの下敷きになり、水飴みたいにぐにゃりと曲がって変形した。
あたしはと言うと、まるで案山子のように弾き飛ばされ、ガードレールに頭から落ちた。
事故の最中の記憶はない。最後に覚えているのは、赤い服を着たカエルのにやけ顔だ。
で、次に気が付いたら病院だった。