『またね。』
「なんだお前風邪でも引いたのか?」
「うん…ケホッ…」
「おい、そんな薄着してっからだろ。
ちょっと待ってろ。」
磯ヶ谷くんは事務所の中に入って直ぐに戻ってきた。
「おら、これ。」
「…え?」
「貸してやるっつってんの。
夜寒いかなと思って持ってきたけどあちぃーわ。」
磯ヶ谷くんが僕に貸してくれたのはスカジャン。
「…?」
「だーっもう!羽織れ!早く!」
「あ、はい…」
僕は大人しく磯ヶ谷くんの上着を羽織る。
「ありがとう…」
…磯ヶ谷くん、背高いんだな…
上着も大きい。
僕はお弁当の方に向かって見る。
「…食欲あるのか?」
「うーん…まあ、お腹は空いてるから…」
「だったらまだそんなにガッツリくうな。」
…磯ヶ谷くんが、優しい…
「サンドイッチとかにしといた方がいいぞ。
野菜からとってけ。
どうせ寝込んでてしばらく食ってねえだろ。」
「…うん。」
「腹が弱ってる時にガッツリ食っても仕方ねえからゆっくり野菜とかフルーツから食え。」
…磯ヶ谷くん、実は優しい人?
「なんだよ。」
「いや、優しいなって思って…ケホッ…」
「ん、まあ俺も前まで言い過ぎてたなあと反省してるっつーか。」
磯ヶ谷くんは僕の方を向いて少し赤くなる。
「じゃあ、これ、お会計…」
僕はサンドイッチとおにぎりとアイスをもってレジへ。
「…ん?なんでアイス?」
「いや、上着借りたからお礼…?」
「ンなもんいいのに。」
「いいのにとか言いながらちゃっかりレジ通してるじゃん。」
みんなが大好きなソーダ味の無難なアイス。
上着のこともあるけど、色々アドバイスくれたからそのお礼。
「…鈴ちゃんがなんでお前のことが好きかちょっとわかった気がするよ…」
「…」
「お前、優しいもんな。
男の俺でもキュンときたぜ。」
磯ヶ谷くんはスカジャンのファスナーを締めながら僕を見送ってくれた。
「じゃーな!きをつけろよ!」
「うん、ありがとう!」
…風邪ひくなんてほんと、気が緩みすぎてたな…
母さんの件があったからなのか、気が緩んでる気がする…
「…サンドイッチ…たべよ。」
僕は公園によってベンチに腰掛けた。
袋の中からサンドイッチを取り出す。
レタスサンド。
野菜…
「…久しぶりに食べたや…」
廃棄でもらうのもお弁当が多いからな…
サンドイッチなんていつぶりだろう…
食欲は本当にあるみたいだ。
食べても胃もたれはない。
「…会いたいな…鈴…」
僕はいつだってキミに会いたい。
【卯月輝side END】

【佐倉鈴side】
「鈴ちゃん。」
「あ、先生!」
「ドナーの人なんだけど、直接会うのはちょっと…」
…だよね…
「そう、ですか…」
「直接会わなければ大丈夫だよ。」
「だったらこれ!渡してください!」
直接じゃなくてもいい。
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