予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
「あのね?別に怖がらせるつもりはないのよ?ホントのホントよ?声が聞こえてるみたいだから、ちょっとだけなんてゆーの?うんちょっとだけ私もテンション上がっちゃったってゆーか?」

言い訳じみた声は、あまりにも現状にそぐわない。

(なに?この……)

人間臭さは、とミリアは思う。
他に誰もいない場所で声が聞こえてくるとなればまず最初に思い浮かぶのは幽◯という存在だろう。
少なくともミリアはそう思った。

「えっとごめんね?ごめんなさい。申し訳ございません。あの、別にね、うん」

けれど◯霊という存在の持つ陰湿で怖ろしげなイメージと、聞こえてくる声の持つイメージの差異が半端ない。
目を閉じて想像してみればきっと目の前には同じ年頃の少女が焦りに顔を赤くして懸命に訴えている。手振り身振りさえついているかも知れないとそんな風に思えてしまう。

これが相手の警戒心を解く手なのだとしたら、ミリアはばっちりしっかりはまってしまっていた。
口の中でガチガチ鳴っていた音はすっかり収まっているし、顔の強張りもずいぶんと緩んでいる自覚がある。

「その、危害を加えようとかいうつもりはないのよ?いや、ホント。ただね、私さ、これまでも何人かここに来た人に話しかけてみたのよ。でも誰も聞こえてる気配なくて。もうずっと他人と話なんてしてなかったから、つい……その、嬉しくて」

照れを含んだ声音と口調には、嘘が感じられなくて。

「ずっと誰とも話していなかったの?」

ミリアは自然と、そう口を開いていた。







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