予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
「箱を開けてほしいの。その布の下にあるわ」

と、声は言った。
お願い発言によって少し警戒心を取り戻したミリアは「箱?箱を開けてどうするの?」と尋ねながら、眉をひそめる。

やたらと人間臭い、明るささえある声だといっても、所詮姿すら見えない幽霊の声だ。
見えていないのか、それとも見せていないのか、ミリアにはわかるはずもないが、少なくとも姿も見えない相手を簡単に信用できはしない。

もっとも相手が幽霊なことを思えば、姿を見せてほしいとも言い難いが。

「別にどうもしないわ。本当よ」

ミリアの声のトーンのわずかな変化に気づいたのか、どことなくシュンとした声音だった。
あんまり沈んだ風だったから、ミリアはなんだか罪悪感が湧いてしまいそうになる。

(いえ。別に私は悪くなんてないわよ)

ないはずだ。
だいたい信用なんてできない。
できるはずもない。

相手はなんといっても幽霊なのだ。
ホイホイ言われるままにお願いを聞いて、それで取り憑かれでもしたらどうする。

「どうかしら。そんなことを言われてもはいそうですかなんて言えないわよ」
「そうかも知れないけど、っていうかそうだろうけど……。でも私はホントにただもう少しだけ広いところに出してほしいだけなのよ。もうずっと長い間箱の中に閉じ込められてるんだもの。まあ箱から出たからってこの部屋から出ることは出来ないから、たいして変わらないかもだけど。暗くてせまーい場所にずっと閉じ込められてるのよ?可哀想だと思わない?」
「……そんなの知らないわよ」

なんだかお願いどころか哀願を通り越して恨みがましい雰囲気を漂わせ始めた声に、ミリアは少しムッとして答え、けれど次の瞬間聞こえてきた声に、ヒヤリと背筋が震えた。







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