予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
乳母とは母に変わり乳を飲ませてくれる女性のことだ。たいてい母親と同年代で、同時期に子供を産んだ乳の出る女性がなる。

それでいくとすでに老年にさしかかっていたマリアは正確には乳母ではなかった。
乳母はマリアの姪であるレマリナのことでマリアは子守女とでも言うべき存在だったが、邸の者たちは皆マリアのことを乳母様と呼ぶし、レマリナのことはレマリナ様と呼んだ。

マリアとレマリナはどちらも子爵家の出であり、他の邸の使用人たちとは同じ使用人でも格が違う。

マリアはもとはミリアの母の乳母だった女性で、身体の弱いミリアのために誰より信頼のおける人間にミリアを託したのだ。


ミリアが寝込んでいる時、いつもそばにいてくれるのはマリアかレマリナだった。
特にマリアはいつもベッドの縁に座り、何時間でもミリアの手を握って時に熱で熱くなったミリアの額をヒンヤリとしたその手で冷ましてくれた。

いつも優しく握ってくれるその年老いてカサついたマリアの手が、熱にうなされる苦しみの中でミリアに安心と優しさをくれた。

マリアの手はカサついていて体温が低いのかいつもヒンヤリと冷たくて、けれど他の誰のそれよりも温かかった。

だから。
きっとだからだろうと思う。


あの時。

そばにいてくれた彼を。
手を握りしめてくれた彼を。

好きになってしまったのだ。
嫌われていても、あきらめきれないのも、きっと。


ーーーあの冷たい手の温もりを忘れられないから。

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