予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
懐かしい……。


ゆるゆると浮上していく意識の片隅で、ミリアはぼんやりとそんなことを思った。
冷たくて、温かい手。
記憶にあるよりも柔らかくて冷たい手がミリアの手に触れている。

もっとカサついて節くれだった骨の感触のする手のはずだった。
細いけれど、力強い手のはずだった。

なのに触れた手の感触は奇妙に曖昧だった。
確かに触れているのに、実感がない。

奇妙で、不思議な感触。

記憶にある手とは違う。
マリアのものとも、彼のものとも。

だけど同じくらい安心できるような気がした。

フワリとほのかな感触は、幼い頃、時折寝る前に頭を撫でてくれた母の手にも似ている。


閉じた瞼の奥に白い光が差すのを感じて、ミリアはそっと目を開く。が、瞼はひどく重く、動かすにつれひりつくような強張りがあった。

霞む視界にまず映ったのは透き通る紫紺の一対の瞳。
それからまっすぐに通った鼻筋とふっくらと丸みのある桜色の唇。
華奢な輪郭と肩を隠すのは波打つ銀の髪。

「……誰?」

ぼんやりと疑問を口にして、目を瞬いて気づいた。
どうやら自分を覗き込んでいるらしいその人が、半透明のヴェールのように背後を透けさせていることに。



< 25 / 54 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop